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ハムレット

2009年10月31日 (土)
 
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先日、久しぶりにお芝居を見に行った。
シェイクスピアのハムレット。
私の一番好きな作品のひとつ。

時を超えて多くの人を魅了して来たシェイクスピア... 
私も彼の言葉の魔力に惹きつけられた一人。
大学では文学や舞台美術専攻でもなかったくせに、シェイクスピアのクラスだけは専門の人と同じくらい取っていたほど...。


物語を読むとき、
誰でもその場面や登場人物を心に思い描くもの。
でも、心に描き出されるイメージは人それぞれ違っていて、
ひとつとして同じものは存在しないはず。
私の中には私の思い描いたハムレットと彼の世界が存在する。
だから、誰か他の人のイメージで作りだされた舞台を見ても、
きっと満足出来ないんじゃないかって思ってた...。

ところが、
約2年前、ロンドンから今回のハムレット制作を知らされた時、
なぜかそれにもの凄く惹きつけられた。

ハムレット役に名前がクレジットされていたのはジュード・ロウ。

直感的に
私の思い描いていたハムレットを実現できる存在を見つけたような気がして...
詳細も何も知らないうちから、
この公演は絶対に見るって心に決めてしまった。
(NY公演がなければ、これを口実にロンドンに遊びに行こうかと。笑)

ジュード・ロウ...
私は彼のファンでもないし、
これまで彼をことさら優れた俳優だとも思ってはいなかった。
何年か前、パーティーで彼を目の前にした時でさえ、
特に強い印象を持つこともなく、*ふう~ん*っていう程度で...。(失礼だけど。 笑)

私の持つジュードのイメージは、
アップビートな時でさえどこかダークな一面を感じさせる人。
...だから、
狂気と理性、情熱と懐疑、慎重さと気まぐれ...
そんな要素が複雑に混在するハムレットの役を演じるには
ぴったりのように思えて...。
復讐者としての冷酷さと王子の気品... そのどちらをも感じることの出来る存在。

ハムレットのNY公演は、
9月中旬からのプレビュー期間も含めて約2か月半ほど。
ロンドン公演同様、NYでも批評は良さそうだったけど、
今回は先入観の無い状態で作品を観たかったので、レビューを一切読まないことに。
...なので、当日幕が開くまで、
一体どんなプロダクションが目の前に飛び込んでくるのか全く知らない状態。
なんだか目隠しをしたまま劇場にたどり着いた気分。

この日の席は6列目の真ん中。
ちょっと近すぎるかなって思ったけれど(いつもはメザニン派)
今回はハムレットの表情や細かい動作も観たかったので
オーケストラ席のチケットを♪
細かい観察をするにはちょうどいい距離。
(余談:ちょうど役者さんと目が合う場所なのでファンの方にはお薦めかも♡ 笑
ただ、舞台の床を使って演じられるシーンは見づらいのだけれど...。)


そして... 開演時間。

暗闇の中、重々しい音楽と共に幕が開き、
黒一色のステージに蹲るハムレットの姿。
一条の光だけに照らし出されたとても印象的なシーン。
これは公演のプロモーションにも使われているイメージショットで
作品全体の雰囲気ををよく象徴した効果的なイントロダクション。


沈黙...

そして、
本では読み慣れた台詞が聞こえてくる。

舞台背景も衣装も極力装飾を避けた黒/モノトーンのミニマルなもの。
左右に立ちはだかる黒く大きな壁と中央に置かれた威圧的な扉。
“デンマークは牢獄だ”というハムレットの言葉を象ったような雰囲気。
シンプルで視覚的に注意を削がれることの少ない舞台では、
意識は自然に言葉へと注がれる。

400年前に書かれた言葉...。
その年月を経てもなお輝きを失わず、
まるで今生まれたかのように響く言葉の美しさ。
今日まで何千回、何万回と繰り返し使われてきたフレーズでさえ、
ハムレットが語る時、ありふれたものには聞こえない。
シェイクスピアの言葉には何かの魔法がかけられているのかも?

劇はかなりのハイピッチで進んで行く。語られる台詞もハイテンポ。
ジュード・ロウの演ずるハムレットは、驚く程ハイパーアクティブなキャラクター。
まるでAD/HD (注意欠陥・多動性障害)を患っているのかと思わせるほど。笑

一幕目の亡霊との対話場面からクライマックスの決闘シーンまで、
ハイテンションで舞台を動き回るハムレット。
内観/内省癖を覗かせながらも、心中の葛藤や感情を体全体で表現する彼。
こんなに生命感溢れるハムレットは想像した事も無かった。

一時も目が離せないと思わせる程のカリスマ性と魅力を備えたハムレット。
3時間という公演時間が短く感じられた程。

それにしても、こんな長時間の舞台を1日2回。
その間、絶えずエネルギッシュに舞台を飛び回る。
そしてあんなに膨大な量の台詞をこなすなんて...。
少なくとも全体の4割を占めると思われるハムレットの台詞。
独白も、そして、あまりにも有名な台詞を語る場面も、
それがまるで容易な事でもあるかのように完璧なバース(韻文)を語るジュード。

ジュード・ロウがこんなに素晴らしい役者だなんて知らなかった。

ハムレットと言えばこれまで多くの名優と言われる人に演じられて来た役。
学者肌のハムレット、ウィットに富んだハムレット、ひたむきなハムレット。
歴史上、*名ハムレット*と言われるイメージも多数存在していて、
その引き合いに出されることだけだって相当なプレッシャーのはず。
なのに、そんな重圧感に押し潰されることなく
今まで想像されなかった程新鮮で
躍動感を持ったハムレットを演じるジュードって凄い。
彼が、気まぐれに舞台に立った映画スターなんかではなく、
たまたま映画スターになってしまった舞台俳優だったんだって実感させられた。

公演後に読んだインタビューの中でジュードが語っていたこと。

ハムレットの役柄では、
“役者がハムレットを演じるのではなく、ハムレットに役者が演じられる。
ハムレットのイメージの中に役者の姿が現れてくる”のだと...。

会場中の誰もを魅了したのは、ジュード・ロウ自身というよりは、
ハムレットという強烈なキャラクターに*演じられた*ジュードの魅力だったのかも。

直感だけで見るって決めたハムレット公演。
期待以上に楽しめて大満足♡
私の中のハムレット観に新鮮なイメージを吹き込んでくれたよう♪


<追記>
「ハムレット」のプロダクション全体はどうだったかと言うと、ハムレットの印象に他のキャストが霞みがち。ジュードのハムレット役が強烈なので仕方ない部分もあるけれど、明らかにインパクトに欠けるキャストも。ガートルード役はまあ良かったかな?でも、オフィーリアにはナイーブさや繊細さが感じられず、レイアティーズも印象不足。サポート役がもっと強力だったら、より優れた作品になったのに...。それでも、ハムレット役だけでも見る価値は充分あるはず☆