「疲れたぁ!ご飯なんか作りたくなーい。でも、おいしいものが食べたい!!」そんな気分のときに、ふと目に入ったレトルトミートソースとパスタ。お湯を沸かして温めるだけで食事が取れるけれど、でも、ちょっと手抜き感満載で、心が痛む。手抜き感を払拭し、手軽に既存ソースの味をいつもと違った味にバージョンアップさせる裏ワザはないものかしら?
こんな経験、あなたにもありませんか?
そんな時に、お料理をグッとおいしくし、手抜き感を誤魔化すトリックがあるとの噂を耳にしました。トリックと言っても、手品をするわけではないらしいです。
魔法の液体「ガストリック」を料理に加える、たったそれだけ!
しかし、たったそれだけで、本当に料理がおいしくなるのでしょうか?そして、レトルトソースを温めただけの料理でも、そのトリックは使えるのでしょうか?
これは、味覚センサーレオで検証してみるしかありません。
ところで、魔法の液体「ガストリック」とは、どんなものなのでしょうか。
ガストリックは、フランス料理のシェフがコクを出すために使う調味料で、どの家庭にもある砂糖・酢・水を強火で5分ほど煮詰めて作る、濃い琥珀色の液体です。
トリックといっても特別な技術も仕掛けも要らず、家にあるものを強火で煮詰めるだけで、意外と簡単に作れそうです。清潔な容器に入れておけば、冷蔵庫で2週間ほど保つようなので、作って常備しておけばよいですね。
それでは、実際に「ガストリック」を作ってみましょう。 用意するのは、こちらです。
・グラニュー糖 50g ・米酢 10g ・水 25g
グラニュー糖:酢5:1、グラニュー糖と水2:1が基本レシピだそうですので、この割合を守って、量の増減が可能です。グラニュー糖は、上白糖・蜂蜜など、米酢はワインビネガーやレモン汁などを使っても大丈夫です。
まず、グラニュー糖とお酢を鍋に入れて、強火にかけ、混ぜ混ぜします。 水飴状に変化して、ブクブクと泡が立ちます。
2分を過ぎた頃から、ほんのり茶色く色づき始めました。 焦げついてしまいそうですが、そのまま混ぜ混ぜし続けます。
5分を過ぎた頃に、湯気のようなものが立ち上ってきたので、それを合図に、水を投入。 ジュワッ~!!
もうひと混ぜ混ぜして、焦げ茶色になったところで、完成です。 あら簡単!あっという間にできました。
完成直後は、とても熱くて粘り気のある液体なので、やけどには気をつけてくださいね。冷めてカチカチになっても大丈夫!レンジで温めれば、元通りです。
味は、プリンのカラメルに酸味を加えたような甘苦く酸っぱい味を予想していましたが、実際味見してみると一言「苦い」という感想です。
ここまで辿り着くのに、ずいぶんと長くなりましたが、ガストリックのレシピを検証しているわけではありません。 ここからが本番。
本当に、こんな簡単に作ることができる苦い調味料で、料理がおいしく変化するのでしょうか?
温めたミートソースにガストリックを加えて、味覚センサーレオくんと一緒に、試食してみます。 ミートソースはちょっと奮発して「青の洞窟 ボロネーゼ」を使用しました。
【予想】 こんな真っ黒な苦い液体を入れたら、苦味が増えるだけのような気がしてなりません。
【結果】
トマトの酸味がしっかりとした、あっさりした美味しいソースです。ひき肉と玉ねぎがたくさん入っています。
驚くほど甘味と香ばしさが加わり、全く別のソースのような奥深い味に変化しました。トマトの主張は減りますが、何時間も煮込んだかのような濃厚な味となりました。
見た目が黒っぽく変化しました。濃厚で深みのある味には変わりがありませんが、甘味と焦げたような味が加わったことで、味のバランスが悪くなった印象を受けました。煮込んでいる途中に鍋底を焦がしてしまったような味です。
そして、味覚センサーレオくんの試食の感想は、こちらです。
原材料のグラニュー糖の効果なのか、甘みは増していますが、私が感じたほど他の味覚には大きな変化が見られません。 まさか、噂はでたらめだったのでしょうか!?
早まるのはまだ早いです。「ガストリック」は「コク出し」の調味料。コクについて調べてみましょう。
ガストリックを加えることで、0.2ポイント以上、コクが増加しています。これは、95%以上の人が味の変化を感じることができるという数値です。やはり、「ガストリック」は、噂通りにコク出し効果があるのですね!
さすが、プロの料理人が使うだけのことはあります。
さらに注目していただきたいのが、ガストリックを加える分量です。小さじ1杯で、コクが0.2ポイント増加していますが、小さじ1杯の3倍に当たる大さじ1杯加えても、0.26ポイントだけの増加となっています。増加のポイント差は0.06ポイントですので、加えるガストリックの分量の大小では、コク出し効果に大きな差がありません。
このことから、コク出しには、ガストリックを加えるか加えないかは大きく影響がありますが、加える量の大小は、あまり影響がないことが分かります。レトルトソース1人前であれば、小さじ1杯程度で十分そうですね。
チョイ足しするだけで、レトルトソースを、何時間も手をかけて煮込んだような味にバージョンアップできるなんて、まさに「トリック」!
こんなに簡単に作ることができ、味の変化を起こすガストリックですが、その「タネと仕掛け」は、何なのでしょうか?
ガストリックは、グラニュー糖と米酢を強火で煮詰めて作りますが、グラニュー糖に含まれる糖分と、米酢に含まれるアミノ酸に熱を加えると、食品が茶色く変化し、いろいろな香味成分が生まれるという「メイラード反応」が起こります。この香味成分で、なぜ人がおいしいと感じるかのメカニズムについては、まだ解明されていないのですが、食品の香ばしさや風味、旨味を増す効果がある事がわかっています。
このとき生まれた成分こそが、ガストリックによるおいしさアップトリックの「タネと仕掛け」です。
「ガストリック」をチョイ足ししたレトルトミートソースに、もうひと頑張りして、炒めたひき肉やナス、パルメザンチーズを加えて、バジルなんかを飾れば、お味だけでなく見た目もアップ!
ゴールデンウィークに、彼氏を初めて家に招く料理が苦手な女子も、家族の食事の準備に追われるママも、これなら温めてチョイ足ししただけの手抜き料理とは思われない・・・かも?
ガストリックは、レトルトミ-トソ-スだけではなく、様々な煮込み料理やソースにも使えるので、ぜひ、いろいろチャレンジしてみてくださいね。
味覚研究家。AISSY株式会社代表取締役社長 兼 慶応義塾大学共同研究員。味覚を数値化できる味覚センサーを慶大と共同開発。味覚や食べ物の相性の研究を実施。メディアにも多数出演。ブログ『味博士の研究所』で味覚に関するおもしろネタを発信中。