子どもと学びたい!料理と科学の仲良しな関係

クックパッド自由研究の2016年のテーマは「料理は科学」。それは一体どういうことなのでしょうか?分子調理学者として、料理のおいしさを科学的に研究している宮城大学の石川伸一先生に、その意味を教えてもらいました。

身近な料理には「科学的な原理」が潜んでいる!

みなさんが普段食べている料理。実は、科学的な原理によるものがほとんどなのをご存じですか。

例えば、パンケーキ生地をフライパンで焼くと膨らむのは、加熱による化学反応で膨張という現象が起きて生地が膨らんだ、というように説明することができます。

また、卵と油を混ぜ合わせるとマヨネーズができますが、これは卵の黄身に含まれる成分が、水分と油分をつなぎ合わせる乳化という現象を利用した料理です。

このように、料理の多くには、背景に科学的な原理があり、その現象のメカニズムを調べて活用することで、料理の失敗が減ったり、いつもの料理がもっと上手にできるようになったりするのです。

例えば、ゼラチンを使って生のパイナップル使ったゼリーは作ろうとすると、いつまでたってもゼラチンが固まらず失敗してしまいます。これは、パイナップルに含まれるタンパク質分解酵素が、ゼラチンの凝固作用を妨げるのが原因です。一方で、タンパク質分解酵素は熱を加えると、働きが失われるという性質があります。そこで、パイナップルを使ってゼリーを作りたいときは…

1.生のパイナップルを加熱して酵素の働きを止める
2.すでに加熱処理されているパイナップルの缶詰を使う
3.ゼラチンではなく寒天など別の凝固剤を使う

などの方法をとることで、今度は失敗せずにゼリーを作ることができます。そう、失敗の原因を科学的に突き止めることで、成功の方法を導き出すことができるのです。

世界的に注目されている「分子ガストロノミ—」

このように、料理と科学は切っても切れない「仲良しな関係」にあります。近年、科学の力を利用してもっと美味しい料理を追求しようという動きは、ますます盛んになっていて、ヨーロッパの革新的なシェフたちの手による「分子ガストロノミー」と呼ばれる料理もその1つ。日本にも「分子ガストロノミー」のレストランがいくつかオープンし、人気を集めています。

厳密に言うと、「分子ガストロノミー」と私が研究している「分子調理」は、もともとは違う意味を持つ言葉でしたが、料理をおいしくするメカニズムを分子レベルで調べ、その原理を応用して新しい料理をつくるという意味で、ほぼ同義語として使われています。

「分子調理」とは何か?

ではここで、私が研究している「分子調理」とは、一体どんなものなのかを、アイスクリームに例えて説明しましょう。

アイスクリームのおいしさを考えるときには、味や風味のほかに「なめらかさ」という要素が大切になります。そこで、アイスクリームの「なめらかさ」を最大化するためにはどうすればいいかを、まずは分子レベルで解析。すると、アイスクリームの中の氷の結晶が小さいほどよいということがわかります。

次に、氷の結晶を小さくするにはどうすればいいかを解析。すると、凍るまでの時間を短くすることが重要であることがわかります。

それらの考察から、現在の技術では液体窒素を使用するのが最も短時間で凍らせる方法であるため、液体窒素を使って瞬間的に凍らせたアイスクリームが科学的に最もなめらかでおいしいと考えられるというわけです。

このように、その料理がおいしくなる原理を分子レベルで解き明かし、その原理に基いて最適な方法を料理に応用するのが「分子調理」なのです。

料理からたくさんの学びを見つけよう!

「分子調理」ほど専門的な研究をしなくても、身近な料理からたくさんの科学的な原理 を学ぶことができます。料理をテーマにした自由研究は「料理=科学」であるという気づきを与えるとともに、料理がどんな現象によって成り立っているかを知ることができます。

科学では「なぜ?」と考えることが大切。料理から身近な「なぜ?」を見つけ、実験を通じて答えを探しだす経験をすることで、子どもは自ら「積極的に学ぶ力」を身につけることができるはずです。

ぜひ、長い夏休みを利用して、料理に潜む不思議を考えながら、おいしい料理を作ってみましょう!


石川 伸一(いしかわ しんいち)
1973年福島県生まれ、農学博士。宮城大学食産業学部フードビジネス学科准教授、クックパッド食みらい研究所 特任研究員。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは鶏卵の機能性に関する研究。『料理と科学のおいしい出会い〜分子調理が食の常識を変える〜』(化学同人)、『必ず来る! 大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)ほか著書多数。

クックパッド編集部