料理研究家 大黒谷寿恵さん この冬注目の映画「武士の献立」は、料理を介して家族の絆を深めていくヒューマンドラマ。画面からは和食のおいしさ、美しさが伝わってきます。まわりの人を笑顔にするコツは、いつもの料理にほんのひと手間かけること。ちょっと頑張るだけで、味は驚くほど変わります。そこで全3回に渡り、料理研究家、大黒谷寿恵さんが和食の魅力とひと手間ポイントを伝授。第2回は、「煮もの」です。
いもの煮っころがしや肉じゃが、筑前煮など、ひと言に「煮もの」といっても内容はさまざま。まず、材料を切る際に気をつけたいポイントはありますか?
「筑前煮など、根菜を中心にした具だくさんの煮ものは、大きさをそろえるのがポイントです。仕上がりが美しいですし、口に入れたときのバランスもよくなります。ただ、鶏肉は少し縮むので、やや大きめに切っておくとよいでしょう。肉を先に炒めておく場合はそのまま煮込んで構いませんが、炒めずに煮る場合は一度熱湯をかけて霜降りにしてから加えると生臭みが取れておいしくなります」。
煮くずれしないようにする方法はありますか?
「かぼちゃなどは切り分けてから角部分を“面取り”しておくと煮くずれしにくくなります。また皮をところどころむいておくと、味がしみ込みやすく皮もはがれにくいので、きれいに仕上がります。このちょっとしたひと手間が案外大事! また、味のしみ込みやすさで言えば、“隠し包丁”もおすすめです。ふろふき大根など大ぶりの煮ものは、盛りつけ面の逆側に十字に5mmほど切り目を入れておくと火の通りが早くなり、味もしみ込みやすくなります」。
大根などは下ゆでをしたほうがよいと聞きますが、煮ものによっては下ゆでが必要なのでしょうか?
「筑前煮は具材の表面にバッと味をつける煮ものですが、厚切りの大根を使った煮ものを作る場合は表面だけの味付けでは生煮えになることもあり、おいしく仕上がりません。そこで本番の煮込みに入る前に、米のとぎ汁で下ゆでをします。すると透明感が出てやわらかくなり、アクも取れます。とぎ汁がない場合は水に米を少々入れるとよいでしょう。大根がうっすらと透き通るくらい(少しかため)で火を止めて水にとり、表面の糠をさっと洗ったら、再度水からゆでて沸騰したらざるにあげます。これで下ごしらえは終了。あとは出汁などで煮て、味をつけていきます。すでに火は通っているし味のしみ込みもよいので、長時間煮込む必要はありません」。
ほかにも、とぎ汁で下ゆでしたほうがよい食材はありますか?
「とぎ汁で煮ると少し白っぽくなるので、里いもの白煮など、白さをいかした料理に向いています。里いもの場合は、まず独特のぬめりを取ります。塩をまぶしてもみこみ、よく水洗い。そのあと下ゆでします。とぎ汁でかために一度ゆで、水洗いして、再度水からゆでて沸騰したらざるにあげて余分な水分を飛ばします。この場合、2回目の下ゆではとぎ汁の臭いを取る役割も兼ねています。面倒なようですが、そのあとの煮込み時間が短くて済みますし、食感もよくなるので、このひと手間をぜひかけてほしいです」。
煮ものはどの鍋を使うのかも迷いどころです。大きさによって煮え具合も違うのでしょうか。
「具の量に見合った鍋を選ぶことが大事です。必要以上に大きい鍋を選んでしまうと煮汁がたくさん必要になり、煮汁の中で具が泳いでしまって煮くずれの原因になります。かといって小さすぎても具がぎちぎちで煮えにくくなってしまうので、“具が2〜3個重なる程度”を目安に選びましょう。鍋底に隙間がある状態で煮たり、鍋の上までパンパンに入っているような状態は避けること。煮汁をグツグツ対流させながら味を含ませていくので、ある程度の深さは必要です」。
煮汁量の目安を教えてください。
「ひたひたよりちょっと少なめ、具の頭が少し出ているくらいが目安です。うちは多過ぎるかも?と思った人、いるのではないでしょうか。また、それでは火が通らないのでは?と心配されている人もいるでしょう。大丈夫です。落としぶたをして煮るので問題ありません。この煮汁量は重要なポイントです!」。
先生の作る筑前煮は、落としぶたをしたあとも結構強めの火加減のように感じましたが、大丈夫なのでしょうか。
「この火加減もポイントです。“フツフツ”くらいだと煮汁が動いてくれないので、ある程度“グツグツ”させて煮汁を対流させることが大事です。弱火で煮込むと時間がかかり、返って煮くずれてしまうことも……。今まで弱火で煮ていた人は思い切って火を少し強めてみてください。この煮方はあくまで筑前煮の火加減。ふろふき大根など弱火でじんわり煮るものもあるので、具材に合った火加減を心がけましょう」。
味付けはどのタイミングで行いますか?
「魚や肉の場合は、臭み消しのため先に酒などを加えることもありますが、基本的に最初は出汁で煮て、味付けは最後にします。特に塩やしょうゆなど塩分のあるものを先に入れると、火が通りにくくなるので注意して。筑前煮の場合は、具に火が通ったら酒や砂糖、しょうゆなどお好みの調味料で味付けし、最後にみりんを加えて照りを出すとよいでしょう。火を止め、粗熱がとれていく間に、具に味がしみ込んでいきます」。
料理研究家・大黒谷寿恵さんが、ひと手間が活きる和食のお手本レシピを厳選してご紹介します。和食の要である出汁を活用して、旬食材のおいしさを味わいましょう。
料理上手のお春が嫁いだ先は、由緒ある“包丁侍”の家だった……。江戸時代、刀ではなく包丁で藩に仕え、料理で動乱を乗り越えた実在の家族のドラマ。劇中では当時の武家や庶民が食べていたものが忠実に再現され、素材をいかした調理法や華麗な包丁使いまで、観ていて喉がゴクリとなる伝統的な和食の魅力を堪能できる。
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映画「武士の献立」に学ぶ、ひと手間で驚くほど美味しくなる和食のコツ!
まわりの人を笑顔にする料理のコツは、いつもの料理にほんのひと手間かけること。ちょっと頑張るだけで、味は驚くほど変わります。そこで全3回に渡り、料理研究家、大黒谷寿恵さんが和食の魅力とひと手間ポイントを伝授します。
石川県金沢市出身。 大学卒業後、料理の世界へ。
2003年カフェレストランbijurei(東京)で料理長、2004年レストランa.k.a.にて料理長。2006年より音楽プロデューサーの小林武史さんがプロデュースするkurkku cafeにてオープニングよりディレクター兼料理長を務める。2007年6月よりフリーとなり、講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発を精力的に行っている。2009年より鎌倉に住まいを構え、料理教室「寿家」をスタート。